戰時に於ける放送の威力【ラジオ年鑑. 昭和16年】日本放送協會
【ラジオ年鑑. 昭和16年】
[時局と放送事業] p21-23/360
戰時に於ける放送の威力 p21/360
我國は聖戰三周年下、
光輝ある紀元二千六百年を迎へ、
愈々確固不動の體制を整へ以て
新東亞建設の大理想完遂に
國家の總力を擧げて邁進しつゝある時、
歐洲にあつては
獨ヒツトラー總統の獅子吼放送は、
英帝の宣戰布告放送となり
今や第二次歐洲大戰は熾烈を極めてゐる。
第一次大戰當時の未だ
ラヂオの存しなかつた時代と比較する時、
如何にラヂオが近時の戰爭に
重大なる役割を持つてゐるか
想像にかたくないであらう。
又我々には事變の初め
通州に起つた叛虐事件を忘れることは出來ない。
當時南京よりする蔣政權のデマ放送は
冀察政權下の支那兵をして
支那側の勝利を盲信せしめるに至り
斯くも未曾有の慘劇を惹起したのである。
又、昭和十四年十二月
突如上海の一角から和平建國の叫びを擧げた
汪精衞氏の熱血溢る放送は、
重慶政權をして周章狼狽成す處を
知らざる混亂に落し入れたのである。
昭和十五年三月
新中央政府成立式典の行はるる運びとなるや、
その前夜より數日に亘つて、
林森、孔祥熙を始め蔣麾下の領袖は
交々マイクに立つて
必死の反汪放送を行つたのであつた。
其の他蔣政權のデマ放送は枚擧にいとまがない。
元來平時に於ける對外放送は
主として友好的外交機關として
行はれるに止まつたのであるが、
その持つ特性の直接性と迅速性並に擴播性は、
戰時にあつては遺憾なく發揮せられ、
政治的に果敢に驅使される。
對手國の政狀や外政に對する批判論難、
その他の對抗的内容の放送は直ちに攻撃、
〔写真〕 p22/360
火花を散らす宣傳戰に於てゲツペルス宣傳相の直轄下
日夜大活躍のベルリン放送所全景
× ×
ドイツ及イタリヤは早くから
ラヂオの國家的運行に關心を有し、
長波、中波、短波の特性に從つて
夫々の使命を與へたのであるが就中、
短波放送の活用は目覺ましきものがあつた。
卽ちイタリヤに於ける地中海周邊を目標としたる放送は、
イギリスをして短波放送に外國語を採用せしめ又、
獨、伊の中南米向けの放送は
短波放送に立後れの感あつたアメリカに衝激を與へ、
急速に之が實現と整備に當らしめるに至つたと謂はれる。
獨墺合邦とチエツコ併合に活躍したドイツの放送は
歐洲諸國を驅つて外國語による放送宣傳の強化に狂奔せしめ、
かくして烈しい電波戰を舞臺として
昭和十六年 ラヂオ年鑑
定價金一圓三十錢
昭和十五年十二月二十五日印刷
昭和十五年十二月 三十日發行
編輯者 社團法人 日本放送協會
松田儀一郎
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發行兼 株式會社 日本放送出版協會
印刷者 和田利彦
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