支那事變と我が放送【ラジオ年鑑. 昭和16年】日本放送協會
【ラジオ年鑑. 昭和16年】
[時局と放送事業] p21-23/360
支那事變と我が放送 p22-23/360
昭和十二年七月七日
蘆溝橋事件を發端とし
日支關係が極めて緊迫を告ぐるや、
帝國政府は直ちに重大決意を發表したが、
この發表は時を移さず電波に乘せて
國内に又海外に昂揚せられた。
同年八月一日には香月北支駐屯軍司令官の
聲涙流るゝ講演が天津より前線放送として行はれ、
續いて軍報道部松村秀逸少佐の放送等
國民感激の中に行はれたのである。
その後北支戰況の展開に伴つてこの前線放送は、
「北支の時間」として
八月二十四日以降實施せれることゝなつた。
中支よりの前線放送も戰線の發展に從つて企劃せられ、
早くも十二月十九日には上海より
「南京に於ける松井最高指揮官の戰歿將士慰靈祭弔文朗讀」が
錄音放送によつて送られて來た。
その後上海の秩序恢復と共に
昭和十三年五月六日
上海總領事日高信六郎氏の
「事變後の上海について」と題する講演を第一回として
毎週金曜日定時中繼放送を實施することゝなつた。
斯くて天津・上海より定時に入中繼せらるゝ
前線將士の實戰談、從軍記者の現地報告、
前線實況は銃後國民の感動的番組となつた。
殊に昭和十三年五月十九日徐州陥落の日、
午後十時劃期的前線放送が河西アナウンサーの
「故國日本の皆樣、祖國われらが日本の皆樣、
我々のマイクは現在非常な困難と危險を冒して
○○戰線に出動中であります……」
に依つて開始され、
毎日午後十時より十分間
全日本の聽覺を緊張せしめたのであつた。
又十月二十五日午後四時三十分
「遂に皇軍は漢口の一角に突入せり」
と發表されたこの日午後七時十五分
漢口最前線より中繼放送を行ひ、
以後十日間毎日午後七時十五分より十分間、
戰況報告、戰況錄音が中繼放送された。
事變の進展に伴ひ放送の戰時體制は着々と整備せられ、
國内放送に於ても前記
中北支よりの現地放送の外に
ニユース時間の增加、特別講演、及びラヂオ時局讀本、
ニユース解説等
その番組は事變遂行の一途へ集中せられてゐる。
〔写真〕ソ軍を惱ましたフインランド國境の芬軍擴聲機
滿洲及支那に中繼せられ、
その送出種目はニユース、經濟市況、
講演、學校放送、婦人の時間、
音樂、演藝等國内に於ける重要なる放送の悉くに及び
東亞共榮圏の確立に協力してゐるのである。
× ×
國際放送は十四年五月訪日
ドイツ新聞使節ウイルケン・ケンバー氏外の
事變下日本の現狀の報告放送を初め、
米國のジアーナリストや、
前述ヒツトラー總統のポーランド進撃に關する獅子吼、
英帝の對獨宣戰布告の世界放送、
伯林、紐育、倫敦等よりする
各駐在同盟支局長の歐羅巴情勢の現地放送其他
駐米大使等の世界情勢に關する放送等
ラヂオの持つ機能を遺憾なく發揮して
餘すところがなかつた。
× ×
海外放送に於ても
歐羅巴向、南米向、北米東部向、
北米西部布哇向、支那南洋方面の五方面、
放送時間使用國語十ケ國語をもつて、
毎日日本時間午前四時より
午後十一時三十分に至る間
放送を通じて正しき眞の日本の姿の昂揚並に
在外同胞の鼓舞に努力しつゝあつたが、
昭和十五年六月一日以降、
獨逸のダンチヒ獨逸復歸宣言
以後に於ける新情勢に卽應し、
バルカン、印度支那をはじめ
蘭領東印度諸島を含む西南アジア向に又、
布哇向に新しく各一時間の放送時間を增設、
放送時間一日十時間、
使用國語は日本語及び英、獨、伊、西班牙、
ポルトガル、和蘭、泰、支那、ビルマ、
ヒンドスタニーの各國語を網羅したが、
更に時局は瞬時も止まることなく
内には新體制運動の發展、
外には日、獨、伊、三國同盟の成立と
目まぐるしい伸長があり、
海外放送も更に完璧を期する爲
昭和十五年十二月以降
マレー語、アラビア語を加へて
十六ケ國語四十餘時間といふ
昭和十六年 ラヂオ年鑑
定價金一圓三十錢
昭和十五年十二月二十五日印刷
昭和十五年十二月 三十日發行
編輯者 社團法人 日本放送協會
松田儀一郎
東京市麴町區内幸町二丁目二番地
發行兼 株式會社 日本放送出版協會
印刷者 和田利彦
東京市芝區田村町一丁目四番地
發行所 株式會社 日本放送出版協會
東京市芝區田村一丁目 テキストビル
(電話)銀座〇七〇七・六二六六番
(振替)東京四九七〇一番
株式會社 日本放送出版協會 關西支社
大阪市東區北久太郎町二丁目 黑川ビル
(電話)船場三八九五番
(振替)大阪五五九二二番
株式會社 日本放送出版協會 中部支社
名古屋市西區御幸本町通四丁目
(電話)本局三五七番
(振替)名古屋一九三三番
株式會社 日本放送出版協會 九州支社
熊本市上通町三丁目
(電話)八九六番
(振替)熊本三〇〇〇番
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇