須知農学校:京都第一中学校生を迎へて
(昭和2年7月25日~8月7日)
【我等の田園生活. 1927刊】
田園生活の回想(之れを序に代へる)p10/113
五乙 内海義夫
「自然」それは純真を尚ぶ青年の修道院だ。
「田園」それは都会の塵を洗ふ若人の桃源だ。
自然の懐に抱かれた田園の生活。
それこそ我等都会に住む学生の憧憬の的であった。
我が京都第一中学が此の夏企てた田園生活は、
自然の生活の中から労働と直感に依って、
生ける教訓を得るのが目的であったと思ふ。
十四日の間は短くはあったが、黄塵の巷を去って自然に帰り、土に親しみ、
神秘の囁きに耳を傾けることが出来たのであった。
抑も須知農学校は、山陰線下山駅から西に入る事一里半、
海抜六百尺の高地にあって、
周囲十数町の間は、殆ど人家を見ないといふ脱俗境だ。
寮の窓からはまぢかに青々とした菜園や、
實もたわゝな桃、梨の畑が見えて、
そのかなたには山を背に林が連って居る。
―略―
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/11
―略―
是れらのほか特別に安井飛行場や
貯水池等を見せて貰って得る所が多かった。
ただ鮎狩の行はれなかったことは残念に思った。
農学校では僕等を指導するために、
休暇中にも拘らずその三年の生徒十人許りを當てゝおかれた。
其三年生諸君が八月一日から五日迄だったか、
毎晩赤い提灯をかゝげて附近の農村を巡回し、
農村振興歌を歌ひ太鼓を敲いて農民に講演をして歩かれた。
その帰りが大抵十二時頃だったのに、
翌朝はまた五時から僕等の指導に立たれたのは、
誠に感謝に堪へないことであった。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/12
この際、身体の弱くて水泳登山等に堪へないものも奮って参加されたい。 p15/113
場所 京都府船井郡高原村府立 須知農学校
期日 自七月二十五日 至八月七日(二週間)
宿舎 須知農学校寄宿舎
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/15
作業実績表 p18-19/113
八月四日
安井飛行場見学(紀念撮影)
八月五日
琴瀧貯水池工事見学(紀念撮影)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/18
八月四日(第十一日) p33/113
朝の作業は精米と筵編みと草取りであった。
八時半より安井飛行場に向って出発。
山を二つ越して、朝の光のあふれてゐる高原に着いた。
右手の大きい建物は格納庫である。
格納庫に入ると銀色の大きな飛行機が四臺ある。
僕は今まで飛行機を手近に見た事がなかったので大変面白く思った。
なかなか精密にできてゐる事も知って興がった。
其のうちに眼の玉の青い、鼻筋の通った、
一見西洋人の様な安井飛行士が見えて、
飛行機を出し機体を点検したのち、
茶色の飛行帽を着けて飛行機にのられた。(大浦)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/33
「コンター。」
「コンター。」
機上の操縦者と翼の下にゐる助手の間に
こんな合図の声がしばらく繰り返されて、
いくたびかプロペラーは助手の手でくるくると廻されたが、
瞬間、バッバッバッバッと大変な響をたてゝ回転しはじめた。
機体の背後にある草は巻き起る烈しい風に薙ぎ伏せられて
頭を地にすりつけてしまった。
耳も聾せんばかりのエンジンの響とプロペラーの音の中に、
驚異をまじへた人々の歓声が起った。
たちまちプロペラーの音が高くなると、機体は後ろに動き出したが、
はるかに向きを東に変へて滑走するや、はやふわりと浮んでゐた。(猪狩)
数分の後、機体は霰のやうな拍手の音に迎へられて着陸した。
それからくわしい飛行機の話を聞いた。
帰りには町長からこゝの開場式の写真帳を各々もらった。(佐々川)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/34
※ 町長からこゝの開場式の写真帳
[須知町安井航空研究所][開塲記念寫眞帖]
大正十一年十一月 須知青年團發行 山家山内撮影
八月五日(第十二日) p34-36/113
九時からは須知町の一大計画である大貯水池工事場へ行った。
三四十町はあったろう。
途中土地の名勝なる琴瀧を見たが華厳滝より大きいさうだ。
しかし水量ではとても及ぶまい。(沓水)
―略―
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/35
そして飛行場の話や飛行機の墜落した話などしてくれた。 p71/113
その時彼は、飛行機に五分間乗せて貰へば、
その料金が十圓とか十五圓だとかそれでも決して高くない、
寧ろ損な位だなどと大いに力説した。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/71
須知便り p72/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/72
三乙 天野信雄 p73/113
やっと須知の農学校に参りました。
駅から荷物だけ自動車で運んで貰って一里許りを川に沿って参りました。
学校は私達の学校の比ではなく、それはそれは立派なものです。
小高い平原の上に建ってゐて周囲は山です。
其の間人家などありません。
此れ等の山は全部学校のださうで、時々狐や猪が飛び出るとききました。
此の邊は一帯が京都などより六百尺も高いのです。
学校に着くと山本校長から農学校長並びにその諸先生方に紹介せられました。
―略―
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/73
三乙 森 勇治 p75-76/113
お手紙有難く受取りました。
今日は報告的な事をやめて偶感をちょっとのべます。
此所で一番深く感じた事は當高の先生方や生徒諸君の親切といふ事です。
先生方は僕等の要求といふ要求は総べて容れて下さった。
いやそれ以上に色々と便宜を計って下さいました。
そして生徒諸君には何を言っても直ぐに「有難う」と言はれます。
何とやさしい言葉でせう。
何と友愛のこもった言葉でせう。
都会人の如き口先だけのお世辞百萬言よりもはるかに深みのある言葉です。
「有難う」といふ言葉は簡単ですが中には言ひつくせない
こまかい友情とか友愛とか言ふものが含まれて居ります。
何故かうあの人たちは親切なんでせう。
その親切は僕等が一中生だからといふ形式的のものでは決してないようです。
決してさうではありません。
かのいやしむべき義理(然し或る場合に於いては此れも大切です)
といふ様なものから全く離脱してゐるものです。
云はば全然情愛そのものです。
僕はかう思ひます。
あの人たちは自然といふ大きな懐に抱かれて日を送っています。
自然を相手として働いてゐます。
自然は義理といふものを持ち合わせてをりません。
憎しみとか怨みとか妬みと言ふ様な事は少しもありません。
唯惠みます育みます。
すべては自然にそむいて生きて行く事は出来ません。
しかるに都会の人は、やゝもすれば自然にそむきがちです。
そしてあまりに慾といふものに固まり利に走ります。
その結果は冷やかな灰のやうな心が出来上ります。
併し田園の人たちは自然とくらします。
だから知らず識らず自然に化せられて、
そして温かな「人間」となるのです。
今日で十日になります。
十日や二十日位では決して充分に自然を味ひ得られないと
おっしゃるかも知れません。
しかし僕はたしかに自然を味得したと信じます。
僕は今まで労働といふものに対しても
何の敬意も何の興味も充分には持ってゐませんでした。
併しほんとうに「自然」を知って初めて労働の真価がわかったやうです。
それの辛苦と喜悦とがわかりました。
これらはいつしか僕の「人間」に変化を與へたと言っても
決して大げさではないと思ってをります。
詳しい事は帰ってからゆっくりと語りませう。
もうすぐに寝る時間です。
さようなら
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/75
中島君 p77/113
お手紙ありがたう。
そちらの様子がよくわかりました。
この前書くことを忘れましたが當地にはまた
民間飛行士安井氏の研究所があります。
今朝そこを参観したところです。
色々な型の飛行機が六臺かありました。
安井氏が實演してくれましたが第一その軽装に驚きました。
猿股とシャツでそれに腹巻をしてゐるだけです。
もっとも飛行帽は被られました。
しかし僕は夏でも冬服を着けて
裏に猫か狐の毛のついた飛行服でも着るものだとばかり思ってゐましたから。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/77
田園生活雑詠 職員 竹中信雄 p83/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/83
須知行 p84/113
職員 今田哲夫
安井飛行場に赴く。途上
草山の朝(あした)はなべて露ふかしたまたま見つる撫子の花
飛行場にて
プロペラのいよよ高鳴り風立つやしりへ一面の草なびきふし
高原の夏草原の朝風にそよらに揚る飛行機一つ
中空を輪にとぶしばし飛行機は翼むけたり杉原の上に
エンジンの音を停めて飛行機はおりてぞきたる翼たひらに
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/84
一中生を迎へて 須知農学校 三谷 林 p86/113
しかし気合のかかって居る林先生の掛声に励まされて諸君が元気に働かれ、・・・
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/86
所感 須知農学校 田端源太郎 p87/113
林先生御指図の下に農道の整理、寄宿舎の掃除、炊事まで汗をしぼって
活動された事は一同實に驚き入りました。
幸ひ皆さんの御助力で農場の作物も牛も豚も鶏も一層の活力を出しました。
諸君の御健康を祝福し併せて厚く感謝致します。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/87
思出づるまゝに 須知農学校 谷中福四郎 p87/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/87
お相手をして 須知農学校 館山 清 p89/113
所感 卒業生 稲田素臣 p89/113
団体生活に対する感想 卒業生 井上栄次 p89/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/89
田園清論 職員 中川生 p90/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/90
田園生活を顧みて 職員 林 禮次郎 p92/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/92
所感の一二 職員 三谷友三郎 p93/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/93
田園生活に対して 職員 金井千仭 p94/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/94
同行同心 職員 山根好國 p95/113
場所がよかった。
林先生が熱心であった。
農学校の諸先生方並に生徒達が親切であった。
本校の生徒諸子が真面目であった。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/95
昭和3年1月10日印刷
昭和3年1月15日発行
(非売品)
発行者代表 山根好國
印刷者 早崎鶴之助
京都市夷川通川端東入
印刷所 弘文堂印刷部
京都市夷川通川端東入
発行所 京都府立 京都第一中学校田園生活團
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/112
【中等教育諸学校職員録】昭和2年5月現在(第24版)
[府立 須知農学校]p168/621
船井郡高原村
明治四一年四月
本科 一年1 五七
二年1 五一
三年1 四四
専修科 1 八
加藤惠造 校長、修、簿、農総、
欠員 化、農化、
福井義介 教練、
加藤岩治 数、英、林、
田端源太郎 博、栽培、農工、習、
館山 清 数、法、経、畜、
高木治郎 物、地、蠶、
谷中福四郎 英、栽培、
大橋勉孝 国、漢、地、歴、
吉田幸吉 書記、
吉田九一郎 剣、
世木信重 體、
西村牧太郎 助手、
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448034/168
[府立 京都第一中学校]p158/621
京都市吉田近衛町
明治二六年四月
本科 一年 4 二三二
二年 4 二〇八
三年 4 二一二
四年 4 一九九
五年 3 一五三
補習科 2 一三八
山本安之助 校長、修、漢、
山根好國 数、
金井千仭 地、博、
三谷友三郎 英、
林 禮次郎 英、
中川兼治郎 国、漢、習、
竹中信雄 国、漢、
今田哲夫 漢、
壽岳文章 英、
中川與之助 法、経、
―略―
高野秀太郎 教練(配属将校)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448034/158
昭和2年8月29日印刷
昭和2年9月1日発行
(非売品)
編纂兼発行者 中等教科書協会
東京市神田区小川町四十番地
右代表者 坂本嘉治馬
印刷者 綾部喜久二
東京市神田区雉子町三十四番地
印刷所 宮本印刷所
東京市神田区雉子町三十四番地
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448034/617
【中等教育諸学校職員録】昭和4年5月現在(第26版)
東京 中等教科書協会
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448058/3
[府立 須知農学校]p194/708
船井郡高原村
明治四一年四月
本科 一年1 五三
二年1 五三
三年1 五四
専修科 1 一
北口慶蔵 校長、修、法、経、
三谷 林 化、農化、実習、
加藤岩治 数、英、林業、実習、
田端源太郎 博、栽培、農工、実習、
西田治郎 物、地、蠶業、実習、
谷中福四郎 英、栽培、実習、
岡田性恭 国、漢、地、歴、
岡崎太郎 数、農総、実習、
吉田幸吉 書記、
吉田九一郎 剣、
山内卓二 體、
堀川忠間 助手、
助川啓爾 教練(配属将校)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448058/194
(昭和2年7月25日~8月7日)
【我等の田園生活. 1927刊】
須知附近略図 p3/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/3田園生活の回想(之れを序に代へる)p10/113
五乙 内海義夫
「自然」それは純真を尚ぶ青年の修道院だ。
「田園」それは都会の塵を洗ふ若人の桃源だ。
自然の懐に抱かれた田園の生活。
それこそ我等都会に住む学生の憧憬の的であった。
我が京都第一中学が此の夏企てた田園生活は、
自然の生活の中から労働と直感に依って、
生ける教訓を得るのが目的であったと思ふ。
十四日の間は短くはあったが、黄塵の巷を去って自然に帰り、土に親しみ、
神秘の囁きに耳を傾けることが出来たのであった。
抑も須知農学校は、山陰線下山駅から西に入る事一里半、
海抜六百尺の高地にあって、
周囲十数町の間は、殆ど人家を見ないといふ脱俗境だ。
寮の窓からはまぢかに青々とした菜園や、
實もたわゝな桃、梨の畑が見えて、
そのかなたには山を背に林が連って居る。
―略―
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/11
―略―
是れらのほか特別に安井飛行場や
貯水池等を見せて貰って得る所が多かった。
ただ鮎狩の行はれなかったことは残念に思った。
農学校では僕等を指導するために、
休暇中にも拘らずその三年の生徒十人許りを當てゝおかれた。
其三年生諸君が八月一日から五日迄だったか、
毎晩赤い提灯をかゝげて附近の農村を巡回し、
農村振興歌を歌ひ太鼓を敲いて農民に講演をして歩かれた。
その帰りが大抵十二時頃だったのに、
翌朝はまた五時から僕等の指導に立たれたのは、
誠に感謝に堪へないことであった。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/12
この際、身体の弱くて水泳登山等に堪へないものも奮って参加されたい。 p15/113
場所 京都府船井郡高原村府立 須知農学校
期日 自七月二十五日 至八月七日(二週間)
宿舎 須知農学校寄宿舎
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/15
作業実績表 p18-19/113
八月四日
安井飛行場見学(紀念撮影)
八月五日
琴瀧貯水池工事見学(紀念撮影)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/18
八月四日(第十一日) p33/113
朝の作業は精米と筵編みと草取りであった。
八時半より安井飛行場に向って出発。
山を二つ越して、朝の光のあふれてゐる高原に着いた。
右手の大きい建物は格納庫である。
格納庫に入ると銀色の大きな飛行機が四臺ある。
僕は今まで飛行機を手近に見た事がなかったので大変面白く思った。
なかなか精密にできてゐる事も知って興がった。
其のうちに眼の玉の青い、鼻筋の通った、
一見西洋人の様な安井飛行士が見えて、
飛行機を出し機体を点検したのち、
茶色の飛行帽を着けて飛行機にのられた。(大浦)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/33
「コンター。」
「コンター。」
機上の操縦者と翼の下にゐる助手の間に
こんな合図の声がしばらく繰り返されて、
いくたびかプロペラーは助手の手でくるくると廻されたが、
瞬間、バッバッバッバッと大変な響をたてゝ回転しはじめた。
機体の背後にある草は巻き起る烈しい風に薙ぎ伏せられて
頭を地にすりつけてしまった。
耳も聾せんばかりのエンジンの響とプロペラーの音の中に、
驚異をまじへた人々の歓声が起った。
たちまちプロペラーの音が高くなると、機体は後ろに動き出したが、
はるかに向きを東に変へて滑走するや、はやふわりと浮んでゐた。(猪狩)
数分の後、機体は霰のやうな拍手の音に迎へられて着陸した。
それからくわしい飛行機の話を聞いた。
帰りには町長からこゝの開場式の写真帳を各々もらった。(佐々川)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/34
※ 町長からこゝの開場式の写真帳
[須知町安井航空研究所][開塲記念寫眞帖]
大正十一年十一月 須知青年團發行 山家山内撮影
八月五日(第十二日) p34-36/113
九時からは須知町の一大計画である大貯水池工事場へ行った。
三四十町はあったろう。
途中土地の名勝なる琴瀧を見たが華厳滝より大きいさうだ。
しかし水量ではとても及ぶまい。(沓水)
―略―
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/35
そして飛行場の話や飛行機の墜落した話などしてくれた。 p71/113
その時彼は、飛行機に五分間乗せて貰へば、
その料金が十圓とか十五圓だとかそれでも決して高くない、
寧ろ損な位だなどと大いに力説した。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/71
須知便り p72/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/72
三乙 天野信雄 p73/113
やっと須知の農学校に参りました。
駅から荷物だけ自動車で運んで貰って一里許りを川に沿って参りました。
学校は私達の学校の比ではなく、それはそれは立派なものです。
小高い平原の上に建ってゐて周囲は山です。
其の間人家などありません。
此れ等の山は全部学校のださうで、時々狐や猪が飛び出るとききました。
此の邊は一帯が京都などより六百尺も高いのです。
学校に着くと山本校長から農学校長並びにその諸先生方に紹介せられました。
―略―
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/73
三乙 森 勇治 p75-76/113
お手紙有難く受取りました。
今日は報告的な事をやめて偶感をちょっとのべます。
此所で一番深く感じた事は當高の先生方や生徒諸君の親切といふ事です。
先生方は僕等の要求といふ要求は総べて容れて下さった。
いやそれ以上に色々と便宜を計って下さいました。
そして生徒諸君には何を言っても直ぐに「有難う」と言はれます。
何とやさしい言葉でせう。
何と友愛のこもった言葉でせう。
都会人の如き口先だけのお世辞百萬言よりもはるかに深みのある言葉です。
「有難う」といふ言葉は簡単ですが中には言ひつくせない
こまかい友情とか友愛とか言ふものが含まれて居ります。
何故かうあの人たちは親切なんでせう。
その親切は僕等が一中生だからといふ形式的のものでは決してないようです。
決してさうではありません。
かのいやしむべき義理(然し或る場合に於いては此れも大切です)
といふ様なものから全く離脱してゐるものです。
云はば全然情愛そのものです。
僕はかう思ひます。
あの人たちは自然といふ大きな懐に抱かれて日を送っています。
自然を相手として働いてゐます。
自然は義理といふものを持ち合わせてをりません。
憎しみとか怨みとか妬みと言ふ様な事は少しもありません。
唯惠みます育みます。
すべては自然にそむいて生きて行く事は出来ません。
しかるに都会の人は、やゝもすれば自然にそむきがちです。
そしてあまりに慾といふものに固まり利に走ります。
その結果は冷やかな灰のやうな心が出来上ります。
併し田園の人たちは自然とくらします。
だから知らず識らず自然に化せられて、
そして温かな「人間」となるのです。
今日で十日になります。
十日や二十日位では決して充分に自然を味ひ得られないと
おっしゃるかも知れません。
しかし僕はたしかに自然を味得したと信じます。
僕は今まで労働といふものに対しても
何の敬意も何の興味も充分には持ってゐませんでした。
併しほんとうに「自然」を知って初めて労働の真価がわかったやうです。
それの辛苦と喜悦とがわかりました。
これらはいつしか僕の「人間」に変化を與へたと言っても
決して大げさではないと思ってをります。
詳しい事は帰ってからゆっくりと語りませう。
もうすぐに寝る時間です。
さようなら
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/75
中島君 p77/113
お手紙ありがたう。
そちらの様子がよくわかりました。
この前書くことを忘れましたが當地にはまた
民間飛行士安井氏の研究所があります。
今朝そこを参観したところです。
色々な型の飛行機が六臺かありました。
安井氏が實演してくれましたが第一その軽装に驚きました。
猿股とシャツでそれに腹巻をしてゐるだけです。
もっとも飛行帽は被られました。
しかし僕は夏でも冬服を着けて
裏に猫か狐の毛のついた飛行服でも着るものだとばかり思ってゐましたから。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/77
田園生活雑詠 職員 竹中信雄 p83/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/83
須知行 p84/113
職員 今田哲夫
安井飛行場に赴く。途上
草山の朝(あした)はなべて露ふかしたまたま見つる撫子の花
飛行場にて
プロペラのいよよ高鳴り風立つやしりへ一面の草なびきふし
高原の夏草原の朝風にそよらに揚る飛行機一つ
中空を輪にとぶしばし飛行機は翼むけたり杉原の上に
エンジンの音を停めて飛行機はおりてぞきたる翼たひらに
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/84
一中生を迎へて 須知農学校 三谷 林 p86/113
しかし気合のかかって居る林先生の掛声に励まされて諸君が元気に働かれ、・・・
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/86
所感 須知農学校 田端源太郎 p87/113
林先生御指図の下に農道の整理、寄宿舎の掃除、炊事まで汗をしぼって
活動された事は一同實に驚き入りました。
幸ひ皆さんの御助力で農場の作物も牛も豚も鶏も一層の活力を出しました。
諸君の御健康を祝福し併せて厚く感謝致します。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/87
思出づるまゝに 須知農学校 谷中福四郎 p87/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/87
お相手をして 須知農学校 館山 清 p89/113
所感 卒業生 稲田素臣 p89/113
団体生活に対する感想 卒業生 井上栄次 p89/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/89
田園清論 職員 中川生 p90/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/90
田園生活を顧みて 職員 林 禮次郎 p92/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/92
所感の一二 職員 三谷友三郎 p93/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/93
田園生活に対して 職員 金井千仭 p94/113
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/94
同行同心 職員 山根好國 p95/113
場所がよかった。
林先生が熱心であった。
農学校の諸先生方並に生徒達が親切であった。
本校の生徒諸子が真面目であった。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/95
昭和3年1月10日印刷
昭和3年1月15日発行
(非売品)
発行者代表 山根好國
印刷者 早崎鶴之助
京都市夷川通川端東入
印刷所 弘文堂印刷部
京都市夷川通川端東入
発行所 京都府立 京都第一中学校田園生活團
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1030690/112
【中等教育諸学校職員録】昭和2年5月現在(第24版)
[府立 須知農学校]p168/621
船井郡高原村
明治四一年四月
本科 一年1 五七
二年1 五一
三年1 四四
専修科 1 八
加藤惠造 校長、修、簿、農総、
欠員 化、農化、
福井義介 教練、
加藤岩治 数、英、林、
田端源太郎 博、栽培、農工、習、
館山 清 数、法、経、畜、
高木治郎 物、地、蠶、
谷中福四郎 英、栽培、
大橋勉孝 国、漢、地、歴、
吉田幸吉 書記、
吉田九一郎 剣、
世木信重 體、
西村牧太郎 助手、
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448034/168
[府立 京都第一中学校]p158/621
京都市吉田近衛町
明治二六年四月
本科 一年 4 二三二
二年 4 二〇八
三年 4 二一二
四年 4 一九九
五年 3 一五三
補習科 2 一三八
山本安之助 校長、修、漢、
山根好國 数、
金井千仭 地、博、
三谷友三郎 英、
林 禮次郎 英、
中川兼治郎 国、漢、習、
竹中信雄 国、漢、
今田哲夫 漢、
壽岳文章 英、
中川與之助 法、経、
―略―
高野秀太郎 教練(配属将校)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448034/158
昭和2年8月29日印刷
昭和2年9月1日発行
(非売品)
編纂兼発行者 中等教科書協会
東京市神田区小川町四十番地
右代表者 坂本嘉治馬
印刷者 綾部喜久二
東京市神田区雉子町三十四番地
印刷所 宮本印刷所
東京市神田区雉子町三十四番地
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448034/617
【中等教育諸学校職員録】昭和4年5月現在(第26版)
東京 中等教科書協会
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448058/3
[府立 須知農学校]p194/708
船井郡高原村
明治四一年四月
本科 一年1 五三
二年1 五三
三年1 五四
専修科 1 一
北口慶蔵 校長、修、法、経、
三谷 林 化、農化、実習、
加藤岩治 数、英、林業、実習、
田端源太郎 博、栽培、農工、実習、
西田治郎 物、地、蠶業、実習、
谷中福四郎 英、栽培、実習、
岡田性恭 国、漢、地、歴、
岡崎太郎 数、農総、実習、
吉田幸吉 書記、
吉田九一郎 剣、
山内卓二 體、
堀川忠間 助手、
助川啓爾 教練(配属将校)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448058/194
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
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