《小林德一郎君》
【人物熊本】大正12年

【人物熊本】大正12年

《小林德一郎君》 p32/228
君は、小倉市在住の實業家であるが、
土木界の一大權威として、
其の巨手の伸び所、
我が熊本に事業的交渉尠からざるものあり、
且つ、本妙寺に宏壯雄大なる
鐡筋コンクリートの仁王門を造營寄附し、
畏くも、久邇宮邦彦王殿下の臺聞に達して、
門額『發星山』の三大文字の御染筆を賜はり、
更に、殿下に拜謁を許されたるのみならず、
御紋章附の銀製花瓶壹對御下賜の
光榮に浴するを得た綠由の地たる點に於て、
『人物熊本』の編中に、
敬意を表する所以である。

故に、熊本に於ける、
君の人格と事業の反映を略々髣髴すれば、
以つて足れりとなし、
敢て關西に高く鳴る、
君が人物と事業を窺はんとするものでなく、
又、其の英雄的道程の豪侠、波瀾、數奇等に就いて
偲ぶのでもない事を、
先づ、斷つて措きたい。

縣營八代海面の埋築工事は、
君が、殆ど、打算を度外視した國家的見地の發露に依る
献身的請負である事實は入札當初の消息と、
其の後の工程實狀が雄辯の物語つて居る。

是れを縣營事業として見ても、
其の性質並に規模に於て、確かに、
縣政の大記録を造るべき新しい試みである。

それだけ、苦難の伴ふのは、
自明の理でなければならぬ。

而も、國家的義奮と難局に任ずるを辭せぬ侠骨を發揮して、
挺身蹶起、是れに當つた君の壯烈な意気と
純眞なる德操美の輝きは、
縣民の擧つて感激多謝措かぬ所であり、
深甚の同情を披瀝して、
工程の進捗竣成を祈つて止まぬのである。

縣營代繼橋は、
大熊本市無比の橋梁であつて、
市を飾る一大壯觀となつて居るが、
是れ即ち、
小林組の施工に係る
模範的工事であると推重されて居る。

更に、縣下一の長橋梁たる
縣營高瀬橋の架橋も、
茲に、竣成を告げ、
新に熊本名所を加へた美觀を誇つて居り、
前記、本妙寺仁王門の造營寄附等、
觀じ來れば、
我が熊本が、君に負ふ所、
寔に、
偉大なるものがある。
吾人は、顧みて、
君を熊本に結び付けた
本妙寺の英靈を感謝すると共に、
益々將來の活動貢献を望み、
尚ほ、滿腔の至誠を披いて、
其の自重加餐を祈るのである。

〔写真〕
□小林德一郎君の造營寄附に係る□
□本妙寺仁王門□
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/923491/32

大正十二年三月十八日印刷
大正十二年三月廿二日發行
發行兼編輯人 眞榮里正助
印刷人    熊本市上職人町四七番地
發行所    新九州社
       熊本市上職員町四七番地
印刷所    寺尾汲古堂
       熊本市新町壹丁目一〇二
定價 金五圓
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/923491/226

【 】『国立国会図書館・近代デジタルライブラリー』より

blog[小野一雄のルーツ]改訂版
2015年07月25日(土)
《小林德一郎氏》
【熊本県大観】昭和10年
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