[丁髷]【阿古木の真砂】昭和4年
【阿古木の真砂】昭和4年
◆丁髷 p54/68
丁髷といへば どれも是も同じと思うふが、
藩政時代には これにもそれぞれの型があつて、
身分、老少で少しづゝ變はり、
時代の流行によつて 幾分かづゝ變化したのは勿論である。
維新前後 朱鞘の刀が流行する前、
若士が大きな丁髷を頂邊に載せ、
少し根が緩むと首を掉る毎に
ユサユサと髷が頂上で舞踏し、
話をするにも 一々髷が動揺するといふ時代があつた。
處で京都警衛で若士が上京し、
諸藩の武士で京都市中が埋まる程の大混雜中、
尤も威勢のよい長州藩士の丁髷が、
なんぞ圖らんチョコナンと頂邊で小さく納まり、
他の諸藩とても羽振りのよいのは皆髷が小さいので、
それを見た大髷連が俄に恐縮して髪を結び直した。
其の連中が宿衛任期を了へて歸藩すると、
一藩が驚異の眼を睜つたが、
何となくハイカラに見えるので、
皆が申合わたやうに丁髷の縮小を實行した。
併し にやけた連中は襟足を抜き揃えて鬢を緩め、
女臭い頭を得意とする徒輩も往々にしてあつた。
丁髷伸縮の沿革を細叙するも一興ではあるが、
餘り香ばしくもないからこれは止めて置く。
昭和四年四月十五日印刷
昭和四年四月二十日發行 【非賣品】
著作者 梅原三千
發行者 津市敎育會
代表者 奥村 勇
印刷所 粟 活版印刷所
三重縣津市塔世西裏一、一三一番地
印刷者 粟 政哉
三重縣津市塔世西裏一、一三一番地
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
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