[桑原深造 即座に燕尾服を製す]
【当世名士譚】明治25年

【当世名士譚】著作者 吉弘白眼(茂義)
 明治25年10月25日出版
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/778432/61

(82) 桑原深造 即座に燕尾服を製す  p38/68
《桑原深造》は高知縣の人なり
卓犖を以て稱せらる
曾て明治十六年の頃
時の府知事《建野鄕三》
屡々夜會を催して府下の紳士紳商を饗す
《深造》時に勸業課長たり
亦招かれて其宴に列せんとす
會規あり曰く
「燕尾服を着用せざれば列席を許さず」と
《深造》時に貧困にして其の用意あるなし
卽ち一策を案出し
フロックコートの前面を糸にて縫ひ
以て燕尾服に擬し
獨言して曰く
「甘いかな速かに燕尾服が出來た」と
直に宴に列す
數時間を經て身体動作の爲め
夫の糸
忽ち斷絶し以前(もと)のフロックコートに復る
《深造》之を知らず
適々《鄕三》の認むる所となり
之を叱責す
《深造》點頭
答へて曰く
「直に燕尾服になります」と
侍婢に命して糸と針を借らしめ
瞬間にして前の如くす
《鄕三》眉を蹙めて苦笑す
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/778432/38

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