「村八分」ものがたり 藤枝静樹『チャー坊遺稿集』著者・柴田和志
『チャー坊遺稿集』飛鳥新社
平成14年(2002)12月18日 初版発行
〔画像〕『チャー坊遺稿集』中表紙
「村八分」ものがたり 藤枝静樹 p350-353
「ヤングギター」七三年九月号
一九七〇年七月二六日、富士急ハイランドで行われた
<ロック・イン・ハイランド>のイベントに
バーズ・パーティーとして参加した僕は、
京都からやって来た「裸のラリーズ」と名のる
とても不思議なバンドに出会った。
この年はウッドストックの映画が公開されたり、
ストーンズが来ると言われた富士オデッセイが企画されたりして、
ロック・フェスティバルは常にマスコミに話題をまいていた。
この<ロック・イン・ハイランド>も、
その当時の日本の代表バンドを網羅し、
スタッフ、機材も最高の部類を集めて
かなり前からマスコミの間で騒がれていたにもかかわらず、
さて幕を開けてみると、
バンド関係、報道関係をのぞくと真の観客は一〇〇人位しかおらず、
関係者はあ然としていた。
日本版ウッドストックと前評判を聞いてドッと押しかけた報道陣は、
このイベントの不成功はともかくとして
取材をしなければいけないので、
ちょっとした事が起こるといつもカメラマンの山ができて、
アマチュア写真家の撮影会みたいな雰囲気になっていた。
ちょうど「裸のラリーズ」が出て来て
「ギミー・シェルター」を演奏し始めた時、
案の定この人だかりができてしまった。
よせばいいのにその中の一人がカメラを持って
ステージに上がっていき写真を撮り始めた。
その時である、
ステージの隅で踊りを踊っていた不思議な奴が
そのカメラマンに向かって激しいケリを入れた。
それに合わすように曲はブレイクして
「ミッドナイト・ランブラー」のブレイクに代り、
カメラマンは鼻血を出しながらステージの上から転げ落ちていった。
その事を遠巻きに見ていた僕はスゴイ奴が現われたと思い、
走ってステージのまん前まで行き、その男をみつめた。
近くによってみると、
濃いグレーのシャツにすり切れたようなジーパンをはき、
その上から夏だというのに穴の開いたロング・ブーツをはき、
八百屋の前かけをつけて
胸まで伸ばした長髪をゆらしながら踊っており、
かなり異様に見えた。
僕はその男に釘付けされたように見つめた。
そいつはボーカル担当らしいのに
時たまワンフレーズを歌うだけで、
後はずっとミック・ジャガーばりの踊りを
一時間のステージ中踊り続けていた。
これは本格的なロック・バンドになるなと思い、
ステージが終わってからたずねると
「裸のラリーズ」の水谷孝がセッション・メンバーとしてバックに
山口冨士夫グループをたのんだという事である。
あの踊っていた奴はと聞くと、
チャー坊というサンフランシスコから帰ってきた奴だという。
その三ヵ月位前、日比谷の野音で
成毛滋のオルガン、
つのだひろのドラム、
石川恵(現、ファー・ラウト)のベース、
それに山口冨士夫のギターをバックにデビューして、
その時も歌わないでずっと踊り続けていたという。
そしてその踊りの途中に成毛の処へいって、
「あんた、いえてへんわ。」と、言った話を聞き、
真にロックの判る奴が現れたなと思った。
その後九月に日比谷の野音に
山口冨士夫グループが出るというので観に行ったが、
何かの理由で出なかったので、
ガックリして帰って来たのも覚えている。
それから二、三週間たってチャー坊が鹿沼で
大麻不法所持現行犯で捕まったのを週刊誌で読み、
僕の予想を越えるミュージシャンが現れたのだと
あらためておもった。
そしてその保釈後、
「しゃばはええで。」と帰ってきたチャー坊は、
冨士夫と一緒に「村八分」という
ツイン・リードギターのバンドを結成した。
それから三年たとうとする今、
やっと待望の「村八分」のLPが二枚組ライブで発売された。
やっとの事でレコードを買って針を下ろしてみる。
あの「村八分」が出てくる時の外国グループ以上に
ワクワクくるあの感じを思い出しながら
目をつぶって待っていると、
何と聞こえてくる拍手の音はパタパタと迫力のない音、
これはやばいなと思いパッと目をひらいて聞いてみる。
冨士夫のチューニングの音が聞こえてくる。
いつもと違う、こんな音じゃない。
ロックを判っていたら
こんなレベルでロク音しないはずなのにと思う。
そんな事を考えているうちに一曲目が始ってしまい、
音に疑問をいだきながら
「村八分」の演奏に聞き入ってしまった。
やはり演奏は裏切らないで迫ってくる。
これだけの事を彼等はやっているのだから、
もっとましな
ロク音の仕方もあるだろうと
くやまれてならない。
今度の二枚組は、ブートレッグ・レコードと思って
「村八分」の男グルーピーは次のLPの発売を待っている。
(ふじえだ・しずき 映像作家)
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『チャー坊遺稿集』『1950~1994』
二〇〇二年一二月一八日 初版発行
著 者 柴田和志
発行者 土井尚道
発行所 株式会社 飛鳥新社
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印刷・製本 日経印刷株式会社
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