[大連西公園の一隅①]旅順要塞の築城土工
【満蒙人の性欲と恋愛】昭和8年
【満蒙人の性欲と恋愛】昭和8年
【満蒙人の性欲と恋愛】昭和8年
[大連西公園の一隅] p58-62/148
滿洲大陸の一大關門である大連に上陸した人は、
そこに西公園と稱する立派な公園を見出すであらう。
此公園は、植民地のシンボルとも云ふ樣な、
或特殊の線と、色とを有して居る氣持の好いパークである。
殊に其線と色とが強く表はれるのは、
晩春から初夏の候にかけてゞある。
植民地特有のアカシヤの花が咲き亂れる頃、
この公園は全くその馥郁たる馨につゝまれてしまう。
白く夢の樣に咲き亂れるアカシヤの花……
そして、甘く輕いデリケートの馨を持つアカシヤの香ひ……
西公園は全く植民地的公園である。
そして、此公園は植民地にふさはしい樣な、
一種のローマンスを持つてゐるのである。
明治三十六年の暮から、明治三十七年の初春にかけて、
日露の國交はどうも穏やかでない。
日露兩國の軍事當局者や、外務當局者は、
こゝを先途と盛んに暗中飛躍を試
みる樣になつた。
日露兩國より等しく軍事上、最大の要處と目されてゐた
旅順、大連、金州にかけて、
その一帶の要塞は次第に戰時狀態に移つて行く。
旅順や大連あたりをうろうろ、うろつく怪しの支那人には、
露國官憲の眼が光つて來る。
どうも日露兩國の雲行が、日一日、刻一刻と怪しくなつて來た。
旅順要塞の築城土工は、
滿洲としては未曾有の大げさな計劃の下に、
開始さるゝ樣になつた。
日に何千といふ支那苦力(クーリー)は、
夜に日をついで大工事の工程を急いだ。
當時、同要塞の父と謳はれた當年の猛將、
コンドラテンコ少將が具さに同要塞の各部を檢し、
難攻不落と云ふ自信の下に、
其一角に立ち長劍にそりを打たして、
遙かに日東の天地を睥睨し、
ひそかに東亞の風雲を顧みて會心の微笑をもらした時、
旅順要塞は全くコンドラテンコ將軍の、理想通りに築城された。
其築城大工事の終了と同時に、
露國官憲は其築城の最大要處に使役した、
支那苦力を招待して盛大なる慰勞宴を張つた。
招待を受けた苦力共は、
飲めや唄へやと大浮かれに浮かれ出した。
宵の内は大騒ぎに騒いで居た苦力の聲が、
夜が更けるに從つて次第々々に細くなつて、
明け方間近くなると、其聲がぱつたり止んだ。
そして、澤山の苦力は、幾日たつても幾日たつても、
其建物から出て來なかつたさうである。
昭和七年十二月二十五日印刷 定價金壹圓五拾錢也
昭和八年 一月 一 日發行 特價六拾錢
著 者 奥野 復堂
發行者 東京市小石川區上富坂町十七番地
成田 茂策
印刷所 東京市小石川區戸崎町九十二番地
己羊社印刷部
發行所 東京市小石川區上富坂町十七番地
己羊社
振替東京 八九四三番
電話小石川六五八八番
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
[青枠]第三小学校=常盤小学校
西 公 園(園が記載もれ)
[青枠]常盤小学校=第三小学校
西 公 園
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇