小野義眞、陶製の五百羅漢:
陶工の姓名加藤太兵衞、尾張の人、瀨戸の直系
【随筆春城六種】昭和2年

【随筆春城六種】昭和2年
    衝 口 發   p270/301

〇往年、小野義眞、陶製の五百羅漢を作り、
 之れを向島の邸に置く、
 後之れを淺草の花屋敷に移すに迨んで、
 衆庶見て之れを珍とす。
 余が鎌倉に養痾の日、
 長谷に陶器を製するの家あり、
 訪うて其主人に會すれば、
 其人卽ち五百羅漢の制作者也。
 由つて其の制作當時の苦心を聞く。
 曰く、五百の羅漢、
 各々其相貌を異にするは極めて難事に屬す。
 二百迄は辛うじて相貌を異にし得たれど、
 意匠全く盡き、それ以上力及ばず、
 已むなく三綠山に藏する兆殿司の五百羅漢圖粉本を借り得て、
 それに據り僅かに功を竣るといふ。
 此陶工の姓名加藤太兵衞、尾張の人、瀨戸の直系に屬すと聞く。
〇陶工苦心を談ずるの傍らに、老妻侍坐して余に語る。
 彼れが如く勞多くして酬の少き製作はあらず。
 當初千圓を以つて受負ひ、二百圓を剰すの打算の處、
 種々附屬品を要し、或は一羅漢を數個作る必要生じ、
 終に製品八百の數に上り、價は爲めに增加せず、
 最後決算に迨んで、受けたるもの僅かに八錢五厘に過ぎずと、
 喃々苦情を洩らして已まず。
 太兵衞、妻の言を聽かざるものゝ如く、
 曰ふ、彼れが如き製作を今一たびを試みんことを欲すと、
 辭色平然たる處に藝術家氣質を認め、
 余をして感動せしめたり。
昭和二年八月五日印刷 (隨筆春城六種)
昭和二年八月八日發行  定價貳圓八拾錢
著 者 市島 謙吉
    東京市牛込區東五軒町三十五番地
發行者 種村 宗八
    東京市牛込區辨天町百五十七番地
印刷者 竹内喜太郎
    東京市牛込區榎町七番地
發行者 早稻田大學出版部
    東京市牛込區早稻田
    (振替 東 京一一二三)
    (振替 名古屋二三四五)
    (振替 大阪六八九〇〇)
 日淸印刷株式會社印刷
 市島春城 著
大隈侯一言一行
 ▼侯の眞筆(寫眞版)二枚 其他口繪八枚
※ 侯の書(大隈家藏)  靑年時代の侯の詩書
東京 牛込 早稻田大學出版部
   東京 一一二三
   大阪 六八九〇〇
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
blog[小野一雄のルーツ]改訂版
2012年02月06日
小野義真[浅草公園]陶製《五百羅漢》陳列
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇