兄事した小野梓氏の紹介で、大隈參議に逢ふ【大隈侯一言一行】大正11年
【大隈侯一言一行】大正11年
(三九) 學生を愛した侯 p90-91/294
今から四十二三年前のことである。
其時分侯は現時の大臣以上に權勢の高かつた參議をして居られた。
官尊民卑の風が極めて旺んな頃だから、
參議と云へば、飛ぶ鳥をも落すほどの素ばらしい勢だつた。
一介の書生などは、
とても其側に寄り付けさうもなかつたのである。
ところが、私は高田(早苗)博士らと大學に居て
將に卒業せんとする時代に其頃、
兄事した小野梓氏の紹介で、
大隈(重信)參議に逢ふことになつた。
そして私(市島謙吉)等數人のものが、雉子橋へ出かけて、
ずらりと列を爲して、始めて侯に謁した。
當時私はどんな風にして
侯が私等を迎へられるだらうかと思つて居た。
心から私等を歡迎して客分のやうに好遇された。
今になつて考へると、
それは、侯が學問に對する深い愛を持つて居られたからで、
從つて學問に身を委ねて居る學生を喜んで迎へられたのであらう。
私等は、今の學生のやうに。
學校の制服を着るやうなこともなく、
破袴弊衣のまゝ、大手を振つて大道を濶歩すると云ふ風だつた。
まあ昔の漢學者に毛のはえたやうなものだつた。
かうして、風采には頓着しなかつたが、
意氣は、天下を呑み、識見は高くて、
參議の前だからと云つて、
決して小さくなつては居なかつた。
だが、侯は却つて左樣した點を愛せられたのであらう。
大正十一年二月廿五日印刷 大隈侯一言一行
大正十一年二月廿八日發行 定價金貳圓三十錢
著 者 市島 謙吉
東京市牛込區東五軒町三五
發行者 種村 宗八
東京市牛込區辨天町一五七
印刷者 渡邊八太郎
東京市牛込區榎町七
發行所 早稻田大學出版部
東京市牛込區早稻田
振替東京一一二三番
日淸印刷株式會社印刷
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