《中村 税氏》老練達識の敏腕家
株式會社小松製作所 取締役社長
【日本事業家総覧 下】昭和14年
【日本事業家総覧 下】昭和14年
出版者 中央経済情報社
出版年月日 昭和14
老練達識の敏腕家
株式會社小松製作所
取締役社長 中村 税氏
而して、
我が中村税氏の主宰する當小松製作所も、
事變以來、
特に目醒ましき活躍をなしつゝある
工業會社の一つである。
中村税氏は、
人格、手腕ともに傑出した模範的事業家として、
夙に令名高き人であるが、
その出身地は宮城縣である。
明治九年八月、
村岡弘一郎氏の二男として呱々の聲をあげ、
先代忠吾氏の養子となつたのだが、
蛇は寸にして人を呑むといふ譬への如く、
氏は、幼時より頭脳明敏、
所謂一を聞いて十を知るの聰明さを有してゐた。
されば、學業の成績もつねに抜群で、
小學敎師も、
ひそかに氏の將來に多大の望み
を囑してゐたといふことだが、
その期待は見事に實現された譯である。
長じて、東京高商に學び、
明治三十五年抜群の成績を以て卒業後、
實業界雄飛のスタートを切つたが、
その天稟の才質は氏の超人的なる努力、
不斷の修養によつていよいよその光輝を加へ、
須叟にして嶄然、
儕輩を抜いて頭角をあらはすに至つた。
即ち、日本郵船、東京電燈等に勤務して、
俊才中村の名を内外に謳はれたのである。
氏が今日の地位を獲得したのも、
その不斷の努力修養によるのであつて、
又、この間歐米に遊學して新智識を修め、
いよいよその力を增したのである。
當社は、大正十年一月、
資本金百萬圓を以て創立され、
今次事變の勃發によつて、
急發展を促され、
昨年三月一舉五倍增資を斷行、
工場の增設、設備の擴張を行つた。
その營業種目は、鐵工業、製鋼業、
電氣化学工業にして、
石川縣下小松町の一角から、
躍進日本の進軍譜を高らかに奏してゐるのである。
當社に於ける中村氏は、
その功績からみても、
またその實力からいつても、
正に社寶と稱すべきである。
しかも、胸中一點の私心なく、
ひたすら國策への協力を念として、
業務に精勵してゐる高潔なる心事には、
内外のひとしく畏敬してゐるところである。
氏は本年六十四歳、
その人格、手腕ともに老來ますます
圓熟味を加へ來たつてゐる。
氏に百歳の長壽を願ふのは
あに筆者一人ではあるまい。
日本事業家總覽 下 奥附
昭和十四年五月 十五日印刷
昭和十四年五月二十一日發行 定價五圓
編纂兼 中村 牟都
發行人 東京市日本橋區茅場町二ノ十三
印刷人 濱野 統一
東京市澁谷區代々木初臺町五四二
印刷所 正文社印刷所
東京市澁谷區代々木初臺町五四二
發行所 中央經濟情報社
東京市日本橋區茅場町二ノ十三
電話茅場町(66)一四四三番一四四四番
一六九七番
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