【部落問題と文芸 (5)】1992-09
出版者 部落問題文芸作品研究会
出版年月日 1992-09
部落問題のうちそと 6
山宣葬前後 北川鉄夫
p18【部落問題と文芸 (5)】1992-09
◇フリーパスで東大へ
二度づとめをした三高生活も
いよいよ終りをつげるときがきた。
五年間の三高生活は、
私の生涯の方向を形成したといってよい。
当時のいい方によれば、
「赤」の「社会主義者』に
私はなりつつあったようだ。
昭初三年(1928)の晩秋のころ、
兄の上官である京大の斉藤大吉先生が、
ひょっこり学校の敦室へ私を訪ねてきた。
斉藤先生とは兄の指示で
時々先生の自宅へうかがい顔なじみになっていた。
先生は私をみつけると外へ呼び出して、
「君、このごろ大分桃色じみてきてるそうじゃないか」
といった。
「森校長から電話があってきたのだが、
兄さんに心配かけるなよ。
適当にやりなさい。
気をつけなさい」というのである。
「ハイ」と返事する外はないので、頭を下げた。
斉藤先生は微笑をうかべながら帰っていった。
ブタ箱入りで警察が学校へ通告したのに違いない。
それで私は気をつけたわけでなく、
適当にやることにしただけである。
そんなことで 、
「桃色じみた」私になったわけだが、
別に卒業に支障がでたわけでなく、
私は大学を東京にするか京都にするかを考えた。
劇や映画のことをやるなら、
やはり東京大学へ行こうと肚を決めた。
しかし、東大に入るのは入学試験が容易ではない。
ところが、東大の入試条項が発表されると、
何とありがたいことに文学部は入試なしである。
どうしてそうなったかというと、
その年度の東大の入試は、
これまで文学部なら英文科、美学美術史科といった
各科別に試験があり、
受からないと
第二志望、第三志望に欠員があれば
そこに廻される。
それも駄目なら入れない。
そういう試験制度であったが、
この年度は、
文科一本で三百人という新しい
やり方になったところが
文科志望の志願者総数が
合計すると三百人に足りない。
それで全志望者はすべてフリーパス
ということになったのである。
おまけに私の第一志望の美学美術史科は
定員十五名のところへ志望者十三名。
この方も私はフリーパスであった。
「おい、東大行くなら試験勉強しろよ」
と同級生から注意されていた私であったが、
一向に準備をしない私はフリーパスで
東大入学が決まったのである。
三高から大学へは、京大志望が多かったが、
東大もかなりいた。
その連中の大半は、法・経といった志望者であり、
彼らの目前には入試の難関がひかえている。
みな必死で勉強しているわけである。
そこへなまけ者の私が悠々とフリーパスで
前途安泰というわけである。
何とも運のよい私であった。
そんな次第で卒業試験もすみ、
休暇になった。
私は兄に東大へ入ることをパリまで手紙をし、
兄からも許可の返事がきた。
一九二九年(昭和4年)三月、
私は無事に三高を卒業した。
東京での下宿は、
文学仲間の一年先輩の植村収と同居することに決めた。
万事ととのった。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1865600/1/18
◇山宣の死
https://dl.ndl.go.jp/pid/1865600/1/18
◇花やしきに籠城
https://dl.ndl.go.jp/pid/1865600/1/19
◇山宣葬当日
https://dl.ndl.go.jp/pid/1865600/1/20
「部落問題と文芸」第五号発 行 一九九二年九月一三日
発行者 部落問題文芸作品研究会
〒六〇六
京都市左京区高野西開キ町三四の一一
部落問題研究所気付
郵便振替 京都四の一七三二九
電話〇七五(七二一)六一〇八
印 刷 東海電子印刷株式会社
頒価 五〇〇円
https://dl.ndl.go.jp/pid/1865600/1/39
図書館・個人送信資料利用可 ログイン中【小野一雄】
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
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《北川鉄夫=本名:西村龍三》
第三高等学校
入学 大正13年(1924)4月
卒業 昭和4年(1929)3月
東京帝国大学 文學部 美學美術史學科
入学 昭和4年(1929)4月
中退
【第三高等学校一覧 大正13年4月起大正14年3月止】
〇文科一年甲類一學級 四十一人
京都一 西村龍三 京都
【第三高等学校一覧 大正14年4月起大正15年3月止】
〇文科二年甲類一學級 四十二人
京都一 西村龍三 京都
【第三高等学校一覧 大正15年4月起大正16年3月止】
〇文科二年甲類一學級 四十人
京都一 西村龍三 京都
【第三高等学校一覧 昭和2年4月至3年3月】
〇文科二年甲類一學級 四十人
京都一 西村龍三 京都
【第三高等学校一覧 昭和3年4月至4年3月】
〇文科三年甲類一學級 三十九人
京都一 西村龍三 京都
【第三高等学校一覧 昭和5年4月起昭和6年3月止】
〇昭和四年三月高等科卒業生
〇文科甲類卒業生
東文 西村龍三 京都
【東京帝国大学一覧 昭和5年度】
第五 文學部
美學美術史學科
〇昭和四年入學
西村龍三 京都
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
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