【この自由党! 前篇 (民衆なき政治)】昭和27年
著者    板垣進助 著
出版者   理論社
出版年月日 1952
 p3【この自由党! 前篇 (民衆なき政治)】昭和27年
p3【この自由党! 前篇 (民衆なき政治)】昭和27年
https://dl.ndl.go.jp/pid/2982142/1/3
 黒幕 辻嘉六おおいに動く
辻は政界の一部ではやくから
大ボスの黒幕として有名であった。
かれは日露戦争で名をあげた
児玉源太郎大将の秘書となったのを振りだしに、
元自由党院外団の金子某のことばをかりれば

『大正九年原敬内閣の選挙には
 当時の金で百万円を主として政友会にばらまき、
 大正十三年清浦内閣の選挙にさいしては
 数千万円を投じ、
 政友本党床次竹二郎の帷幕にあって活躍した。』

普選に反対した床次派の鳩山とは
ずい分古い関係になるが、
辻にかかっては
かれも小僧ッ子にあつかわれ、
牛込加賀町の辻邸に参ずる
かれは頭ごなしに、
お説教をくうという調子で、
かつて独伊を訪問して帰国のさいも、
かれがまっさきに
https://dl.ndl.go.jp/pid/2982142/1/36
挨拶をした先がこの辻だったという。

辻は政界に金をばらまき、
あとで かれらから利権を提供させ、
それを業者たちにあたえて献金をうけ、
この金をまた政界にばらまくという
腐敗の循環をくりかえしながら、
黒幕的存在をのしあげてきた人物であるが、
この辻が鳩山の音羽邸の一部と自由党本部をたて、
鳩山と自由党の料亭宴会費を支払い、
自由党議員多数の選挙費をまかなった。

不当財委の報告によっても、
かれは自由党本部建設費として二十万円、
自由党結党当時の料亭
我善坊・常盤亭などへの支払四、五十万円、
鳩山との会食費四十万円、

そうして
昭和二十二年の四月選挙には
選挙費として
自由党の倉石忠雄(長野)に二十万、
小沢佐重喜(岩手)に二万、
河野謙三(神奈川)に二万、
三浦虎之助(前同)に三万、
磯崎貞序(前同)に二万、
木村公平(岐阜)に三万、
高木松吉(福島)に五万、
浅岡信夫(全国参議)に三十三万、
ほかに民主党の保利茂(大分)に一万、
社会党の岡田宗司(全国参議)に二万、
その他計百七十五万余円をわたしている。

辻のこうした金の出所は、
おなじ不当財委の報告によれば、
緑産業社長吉田彦太郎から三百万円、
元新夕刊新聞社長高源重吉から百万円、
熱海の貿易業者青木勇から百五十万円、
旭工機社長杉山嘉市から百万円、
小計六百五十万円

これに中曾根幾太郎からの
二百五十万円をくわえて
計九百万円にのぼる。

ところで辻献金の筆頭にすわり
この発表額の半ばをしめる吉田と高源こそは、
ほかならぬ児玉誉志夫の残党であった。

児玉は中国で海軍の物資収奪機関
すなわち児玉機関をつくって巨富をつみ、
敗戦とともに多額の金をふところにして帰国、
ついで戦犯として巣鴨に拘引される形勢に、
この金を各方面に分散して保管をはかったが、
そのひとつが かつて児玉機関で幕僚をつとめた
吉田や高源の新商売であった。

児玉が中国でやったいちばんの荒かせぎは
阿片密売による巨利であるが、
かつて東条政権下の翼賛選挙に陸軍省がばらまいた
多額の選挙資金もこの阿片密売にからむ巨利で、
こうした阿片などの犯罪的巨利が、
時うつり人もかわって、
かつての翼賛議員から
こんどは鳩山と自由党にながれこんだのである。

また辻献金の第二位にすわる中曾根の献金は、
のちの昭和二十二年の四月選挙に
自由党から出馬落選した中曾根が、
おなじ落選組の藤川文六や、
ときの外務参与官 自由党議員 塩月学らとはかり、
軍服払下げをたねに
全国の農・漁村からまきあげた
詐欺とヤミの金六百万円の一部である。

鳩山の音羽邸は辻と中曾根の金で
死灰のなかに真新しく再建された。

辻の活躍と資金の授受が以上にとどまるとは思われず、
調査にあった不当財委もその報告の冒頭に、
『辻氏の実体についてはなお疑問を残す』と
ことわっている。

辻はこの種の金をばらまき、
おおぜいの妾と妾宅をかかえ、
麻布の料亭「我善坊」や「桂」を本拠として
自由党議員や官僚にふるまった。

またかれの秘書で英語をぺらぺらの
外交官未亡人 東光孝子は、
かれの命をうけて
司令部幕僚第二部(GⅡ)の政治部長
ワイズルなど要員にちかずき、
本拠の料亭にまねいてとりいり、
三万台の自動車をのりまわして
辻勢力の宏大無辺さを誇示したものである。
https://dl.ndl.go.jp/pid/2982142/1/37
この自由党 前篇 民衆なき政治
1952年9月15日 第一刷
1952年9月20日 発 行  定価180円
著 者 板垣 進助
発行者 小宮山量平
印刷者 斎藤 和夫
発行所 株式会社 理論社
    東京都千代田区神田神保町一丁目六四番地
    振替口座東京九五七三六番
日協印刷・橋本製本
https://dl.ndl.go.jp/pid/2982142/1/108
図書館・個人送信資料利用可 ログイン中【小野一雄】
【 】『国立国会図書館デジタルコレクション』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇