【草野惣市小伝】昭和54年(1979)
出版者   草野産業
出版年月日 1979.2

 坂本電器株式会社
 坂本産・・・・・
 小野一雄と小野雄二
 坂本電器・坂本産業
〔画像〕坂本電器・坂本産業

惣市が関西以東へ進出する好機は意外に早く訪れた。
ただ遺憾なことは、
この好機は会社存立の根幹をゆるがす
大暴風雨を道連れにしていた。

京都市所在の坂本産業株式会社に発生した
巨額の不良債権が台風の眼であった。

坂本産業の坂本牛松社長は
草野産業と間接的な繋がりがあった。
戦前草野稲穂が社長であった
 p87【草野惣市小伝】昭和54年(1979)
〔画像〕p87【草野惣市小伝】昭和54年(1979)
https://dl.ndl.go.jp/pid/12188731/1/87

 小野又一 坂本電器01-1
〔画像〕小野又一 坂本電器01-1

来る日来る日を
 給料 遲拂
 手形決済
に惱んだ頃・・・・・
 1949(昭和24年) 夏//
 小野又一 坂本電器01-2
〔画像〕小野又一 坂本電器01-2

三栄商会の、
地元京都側出資者であったからである。
昭和二十五年(1950)、
折から東京に在住していた稲穂が、
坂本産業を推挙し、
会社の取引き先に申し入れてきた。

稲穂の推挙を容れて取引きを行うべきか否か、
その是非が社内の問題になった。
泰太郎副社長は取引き開始に積極的であった。
関西市場へ進航する水先案内としたかったのである。

河野、野村両支配人を派遣しての信用調査の結果も、
取引きを見合わせねばならぬほど悪くなく、
何よりも坂本個人が、
小田切武林協和銀行頭取と
親交関係にあるという安心感が基底にあった。
協和銀行も月商三百万円程度の取引きであれば、
差支えあるまいという意向であった。

ところが惣市の意見は全然違っていた。
坂本という男が信用出来ぬという絶対的な否定であった。
にもかかわらず副社長が惣市に乞い、
あえて坂本産業との取引きに踏み切ったのには、
副社長として右のような
それなりの根拠があったからである。

取引きを始めてみると、
坂本産業の販売活動は予想以上に活発に見えた。
同産業に対する債権はみるみる膨張し、
会社債権総額の二割に近い巨額に達した。
月商三百万円どころではなかった。

昭和二十七年(1952)十月、
恒例の行事として全社員が京都に旅行した時、
明後日期日の手形が決済出来ぬと、
坂本社長が泰太郎副社長に告げて来た。

坂本についてとかくの風評を耳にした矢先であったが、
時既に遅かった。
ともかくも旅行の行事を済ませ、
副社長は坂本産業に急行し
その帳簿を調査した。
河野支配人と内田、佐々木両社員が同行していた。
調査が進むにつれ、
事態の重大さがはっきり判ってきた。
草野産業もこれ迄かという絶望感が一同を打ちのめした。

坂本産業は銑鉄の回収代金を
坂本電器株式会社の損金に充当するほか、
使途不明の坂本個人用に支出していた。
坂本電器は電熱器や琺瑯鉄器を製作する
坂本産業の関連会社である。

坂本は代金流用の事実を銀行用、税務署用、
草野産業用の三重帳簿によって隠蔽し、
草野産業には全く虚偽の報告を続けていたのであった。

事件発覚と同時に、
坂本は実印を携帯し、
滋賀県方面に逃亡して一時行方を昏ました。
明らかに詐欺横領である。

従来から草野産業は二次問屋の利用を避け、
需要先への直売を販売の基本方針としていた。
坂本産業の場合はその例外になった。

坂本産業も下請け店利用の販売を主とし、
実需工場との日常接触はほとんどなく、
需要先については盲目同然であった。

それだけに草野産業としては、
特に厳重な監視が必要の筈であった。
惣市が坂本不信を直感しているのであるから
尚更のことである。
坂本産業自体についても最終需要家についても、
その実情把握に重大な手抜かりがあったのだ。
坂本事件に当面したある幹部社員は
惣市社長を想起して、
 p88【草野惣市小伝】昭和54年(1979)
〔画像〕p88【草野惣市小伝】昭和54年(1979)
https://dl.ndl.go.jp/pid/12188731/1/88
深い悔恨の情を禁じ得なかったという。
https://dl.ndl.go.jp/pid/12188731/1/89
草野惣市小伝
    昭和五十四年二月二十六日発行
発行人 草野泰太郎
発行所 草野産業株式会社
    草野倉庫株式会社
    草野不動産株式会社
    〠104 東京都中央区銀座三丁目
       九番四号(草野ビル)
    電話(〇三)五四一ノ二九一一(代表)
印刷所 製本所 笹徳印刷工業株式会社
(非売品)
https://dl.ndl.go.jp/pid/12188731/1/116
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